〈4月例会のお知らせ〉

〈4月例会のお知らせ〉

2023年4月15日(土)午後2時より
慶應義塾大学 三田キャンパス
西校舎527教室

 

特別講演

 
 

慣習への反逆と死者の救済

バートルビー、ウェイクフィールド、ハイタワー

田中久男(広島大学名誉教授)

司会:平石 貴樹(東京大学名誉教授)

 

 我々の日常生活において「慣習」は、正負両面のイメージを持っているが、私の話では、我々の生活を惰性化し、精神を麻痺させる(「パラリシス」)モルヒネのような働きをする否定的な意味で使う。対象はアメリカ文学の中で、最も奇怪な振舞いをする人物たちである。
 バートルビーは、事務所の弁護士が労働倫理として強いる慣習に、彼独特の決まり文句を武器に抵抗し反逆するが、ジンジャーナッツを常食して、まるで断食を敢行し死者の仲間入りを急ぐかのような儀式がかった死を迎える。彼の平壁相手の瞑想は、「死者の救済」を意図した魂鎮めである。ウェイクフィールドは、大胆なことはしそうにない、ごく平凡な人物に見えるが、10年の結婚生活の中で妻からは、「利己心」「虚栄心」「狡猾さ」「変な感じ」という特質を鋭く観察され見抜かれていて、おそらく鬱屈感や緊張感をため込んだ彼は、習慣化した生活を脱して自己変身を目指し、数日の旅という口実で家を飛び出し、隣の通りの下宿屋におさまってしまう。これは古い自己を殺しての自己再生という意味で、「死者の救済」だと象徴的に読める。しかし彼は、創造力や活力が豊かでない「慣習の人」として、新しく始めた生活も、皮肉なことに、しみついた轍を20年も反復するという形で孤独な人生を送ることを余儀なくされるのである。ハイタワーは、南北戦争で勇猛をはせた騎馬兵としての祖父の物語を説教壇で語るという背教的な行為によって、「死者の救済」を図り、愚劣な死に方をした祖父の魂鎮めの願いを込めて、彼の物語に意味づけをしようとしたのである。ハイタワーの家の前には、彼の「美術指導」や「クリスマスカード制作」を示す看板が立っていて、それを彼は「記念碑」(monument)と呼んでいるが、その呼称は、20世紀初頭に南部で病的なほど流行した「記念碑建立」という慣習に対する反逆として読めるのではないか。
 
 

 

支部総会

 

特別講演終了後、西校舎527教室
議題:活動、会計報告、委員の交代、その他

        2023年度支部総会は、特別講演会場である西校舎527教室にて開催されます。
        お間違いのないようお気をつけください(例年の会場である、AB会議室ではありません)。